『人声天語』 第123回「文句垂之助の欧州地獄旅(AMT &TCI 欧州ツアー2005)」#15

6月29日(水)

午前9時起床、矢張り白夜故によく眠れず。洗濯を済ませれば、ネット接続し雑務。朝飯は、即席ラーメンの麺と粉末焼きそばソースを用いての焼きそばにて済ませば、紅生姜も青海苔も鰹節もなけれども、矢張り望郷の念に駆られる程に美味なり。

それを見てせんせいも、今や残り少なくなりし必殺アイテムのウスターソースを駆使して焼きそば作れど「あかん、ウスターソースだけやと不味いわ」と、こぼしておられれば、粉末焼きそばソース1袋を進呈、どうやら矢張り中濃のとんかつソースがなければ、あの焼きそばの味にはならぬ模様。丁度その折、メールチェックの為に此処Jussi宅を訪れし東君は、部屋中に充満する焼きそばの匂いに悶絶憤死、せんせいの「一口どう?」との甘い囁きに「その一口が死を招く」と、あの我慢たるを最も忌み嫌う男が、何と忍耐の構え。

JussiとTomiに連れられ、田畑君と兄ィと共にレコード屋数件とフリーマーケット等へ赴く。フィンランドに来たからにはLove Recordsのサイケアイテムなんぞ漁らんと思えど、中古LPでは目ぼしき収穫少なく、格安でCDが購入出来るとの話から、所謂ジャスコの如きスーパーマーケットへと赴けば、Love RecordsのリイシューCDが格安にして、Jussiに内容を簡単に説明して頂きつつ数枚購入、更にDVDが格安なれば初期Black SabbathやらSyd Barrettやら数枚購入。フリーマーケットにては、1枚1ユーロにてアホなイージーリスニング系やら正体不明の馬鹿バンド等のLP数枚を、更にABBAのカセット等を購入。

午後5時、Jussiの云う処の「Poliで一番美味いピザ屋」にて遅い昼飯、否、早い晩飯を取らんとす。東君とせんせいもここで合流。以前にも述べた事があるが、ヨーロッパに於いてピザとは、日本で云う処のラーメンとほぼ同じに位置づけられている様子、即ち昼飯にも晩飯にも、また飲み終えし後の夜食にもなり得る具合にして、必ず深夜まで営業しておれど、値段は至ってリーズナブル、御蔭で事ある毎に、深夜にも関わらずピザを食わされる羽目ともなれば、翌朝の胃もたれはラーメン以上にして、それもここヨーロッパでは当然の顛末なり。このピザ屋もこちらではよく見受けられるトルコ人による店なれば、ピザ以外にカバブも食し得る故、ここは矢張り米を食いたしと、躊躇なく皆でカバブ+ライスのセットを選択せんとすれど、矢張りピザ好きの田畑君のみピザかカバブか大いに迷い迷いし末、ならば私のカバブと半分ずつシェアしようとの交渉成立するや、Truck Drivers Specialなるピザを注文、これこそこちらの深夜トラック運転手御用達の逸品か。カバブは例によって不味くはなけれど、如何せん味が単調故に直ぐ飽きが来る点が難点なり、交換せし田畑君のピザ半分にて何とか味に変化を齎せれば、これにて大いに救われし心持ちと相成りし次第。


Jussi宅へと戻れば、先程購入せし初期Black SabbathのDVDを皆で観賞、Ozzyの例のパフォーマンスが完成して行く過程と、またその衣装の変遷に、皆大いに笑わされる。特に田畑君は、Ozzyのパフォーマンスに大きく触発されし様子、これは何やら不吉な予感。「メタルは趣味」と公言して憚らぬ程のメタルマニアたるJussi御自慢のメタルLPコレクションのジャケットを皆で眺めては、そのあまりのダサさに大いに爆笑。彼は、マイナーな自主制作EPまで所持しておる程に日本のメタルにも精通しておれど、フィンランドにて日本のメタルのLPを探すは至極困難と苦言を呈しておれば、日本にて購入し送る事を約束す。されどJussiの為とは云え、中古レコード屋にて、よりによって日本のメタルバンドのLPを買わねばならぬとは、何とも恥ずかしい限りか。
メタル話で大層な盛り上がりともなれば、Jussiが秘蔵のメタルギアを御披露、ロックスター田畑君がそれらを装着せぬ筈なかろうて、通称「デス恵比寿」ここに誕生す。

JussiのCD棚より発見せしZeni GevaのCDを両手に掲げ「全体去勢!」と絶叫しては、もう気分はすっかりメタル野郎なり。この様子にJussiは狂喜「明日はその格好でライヴやってくれ!」あまりの暴走ぶりにもう手がつけられぬと相成るや、遂にはティーポットカバーを頭に被せられ、腹には兄ィに落書きまでされる始末にして、これにて漸く沈静化。

それにしてもZeni GevaのCDジャケットに写っているこの痩せたギタリストは誰やねん?

午後11時、お疲れの兄ィを除くメンバー全員とJussiにて、近所のパブを梯子。白夜故、辺りは全く明るければ、到底夜遊びなんぞと云う気分にさえならず。はて一体人々は斯様に明るけれど平気で就寝しておられるのかと、ふとそこいらのアパートの窓なんぞ伺えば、何処も此処もブラインドを下ろし光を完全に遮断して眠っておられる様子なれば、いやはやそれも当然の道理たらん。何しろ深夜にしてこの明るさなり。

帰宅後、せんせいは即席ラーメンを食すとかで、麺を焼きそばとして食せし故に残りし即席ラーメンの未使用粉末スープをも再利用せんと、カレー味とビーフ味2袋の粉末スープをミックスしてのカレー&ビーフ味ダブルスープラーメンを作り上げれば、私も味見と怖々一口頂くや、これがまるで懐かしき給食の如き安い味にして意外にも美味。単品では到底許されざる味の各スープなれど、混ざり合えばお互いの不足点を見事補い合い、お互いの欠点を相殺すると云う味の化学反応が起こり得しか。

田畑君はどうやらメタルギアがすっかりお気に入りの様子にして、鋲付きリストバンドしてビールを呷っておられる。午前4時就寝。

6月30日(木)

午前8時起床、シャワーを済ませる。朝飯は昨日に引き続き、即席ラーメンを利用しての焼きそば、そもそも焼きそばとお好み焼きは幾ら食い続けても飽きぬ質なり。

ネット接続し雑務、Paris到着当日の投宿先も確保、Bergamoのフェスティバル出演はどうやら立ち消え、ギリシャのオルガナイザーにもフライトナンバーや到着時間を知らせれば、これにて本ツアーに於ける雑務もほぼ終了か。されど既に今秋に予定されるアメリカツアーのブッキングの最終確認やらビザ発給に関する諸々、レンタカーとツアードライバーの手配からツアーTシャツ製作等、まだまだ雑務山積みなれど、今やメンバー各位が各々に担当してくれておれば、随分と楽させて頂いておる次第。何しろ来年7月にParisにて行われるフェスティバルの出演さえ決定済みなれば、雑務は果てしなく続く事間違いなく、即ち心安らかに過ごせる日々なんぞ当分ある筈もなし。

午後2時、Jussiの旧友にしてAMTの熱狂的ファンを自認するJoukoも訪れれば、Jussi、 Tomiと共に車2台に分乗しTampereへ出発。2時間のドライブにてTampereに到着するや、経済的理由と以前訪れし経緯もある東君を除く我々は、Tampereの名所中の名所たるムーミン博物館へと赴けば、皆童心に還りて大はしゃぎ。私も以前訪れし経緯あれども、ここは何度訪れようが楽しい事間違いなし。ムーミンの目は青ければ、矢張りこれもフィンランド出身故か。勿論皆して土産物屋にて大いに散在。

ムーミンに心洗われし後、今度はJussiとTomiと共にレコード屋へ赴き、Love Records関係のLP数枚を購入、更に先日盗難に遭いし十手の代替品として、セックスショップにてイルカ型ミニローター、通称「ドルフィンちゃん」を購入、これが何とネックレスになっておればいと滑稽なり。こちらのセックスショップは店員が若い女性なれば、商品を手にレジへ向かうは何ともきまり悪けれど、勿論向こうは商売なれば斯様な斟酌一切無用とばかりに、何とも清々しくにこやかな応対ぶり、エロに対し陰湿なイメージを抱くは日本人のみなるかと時折綴れども、まさしく自分も紛れもなく確固たる日本人なる事実を、ここに改めて確認せり。

午後6時に今宵のライヴ会場Kulbiへ到着。突如の豪雨の中を機材搬入。店内に設置されし無料インターネットコーナーにて、明日向かうParisでは知人宅へ独り投宿する予定の東君なれど、未だ滞在先と連絡つかずメール送信等と四苦八苦の御様子。
バーカウンターにて晩飯が用意されていると伺い兄ィが早速赴けば、何やら米を使いし代物にして一見ソーセージ入りピラフの如きなれど、イタリアでのinsalate di risoの一件もあれば、況してや以前ここを訪れし際も同様の代物にして見事轟沈せし記憶あり、さしもの兄ィ曰く「う~ん、不味いよこれ、このソーセージ塩っぱ過ぎるよ、食べられないよ」続く東君も「不味っ!」と泣かされておれば、私は斯様な時こそ「No Hope」にてベジタリアン用メニューにへと変わり身を果たせば、さてそのベジメニューのお味の方はと云うと、ケチャップさえ打っ掛ければまるでチキンライスがおじやになったかの如し、これにて食えぬ程に不味くはなかろう、今宵はベジメニューの勝利にて、我が背信的選択も懸命なり。


そろそろビールにもいい加減辟易しておれば、御蔭でどうやら体調も芳しくなき中、サウンドチェックに於いてギターの音量についてエンジニアと一悶着。これも今やツアー恒例行事となれども、世の中ホンマに音楽もロクに知らんアホなエンジニアが氾濫しておれば、最早飽きれて怒る事さえ不毛に感ずる有様。
「あかん、今日はもうキャンセルや!音楽が何かも判ってへんお前とは仕事出来ひん!」
「いや、ただ君のギターの音量が大き過ぎるから…」
「アホか!ロックやったらギターがデカいの当たり前田のクラッカーやんけ!ワシらレゲエバンドとちゃうど!」
「でもそれだと私が全体の音作り出来ないので…」
「ボケかぁ!誰がお前にそんな事頼んでん?バランスはわしらが取るから、お前はフェーダー全部上げとけ!」
「それだとドラム音が聴こえない…」
「このド阿呆が、一回死んで来い!どんなギターデカかったかて、絶対ドラム聴こえるわ!お前どうせディスコみたいなミックスしよう思てんねやろ!」
「いいえ、そんなつもりはないですが…」
「じゃかっしゃあ~!エンジニア云うもんは、演奏者の手助けをする仕事やろが!せやのにワシらの音楽もまともに理解してへんくせに、グダグダと口答えすな!このタニシが!」
「でも…」
「ボケぇ!『でも』ちゃうやろ!エンジニアは演奏者をリスペクトしてなんぼやろが!ほんでやっと一緒に音楽作って行けるんちゃんか!」
「だからリスペクトしてますよ!」
「しゃあからリスペクトしてんねやったら、何をワシに口答えしくさっとんねんな!」
「いや、だから…」
「あかん、あかん!何でもええからお前らはフェーダー全部上げときさらせ!ボケがぁ!御親切にも楽な仕事さしたる云うてんねんやんけ!」

今宵のPharao Overroadは、ギタリストJanneを除く全員が普段着の上に例のメタルギアをフル装備、Janneのみ彼女お手製と云うアフリカの民族衣装の如きにメタルギアを合わせる離れ技、ラストはJussiとJanneが大暴れにして壮絶な事態になっておれど、今宵も鳥人間マスクに頭巾と云う出立ちのTomiのみが、マシーンの如く正確無比にリズムを刻み続ける対照的な絵面。

次のバンドは男女入り混じっての編成、まるでThird Ear Bandが腐ったかの如し、しょうむない事この上なし。どうせこいつらも、今やリイシューにて世界的に再評価されしタジマハール旅行団からの影響なんぞ多大に受けておれば、許すまじきは諸悪の根源小杉武久。クソしょうむない糞インプロを、雰囲気と付加価値にて誤摩化すのみに留まらず、現代音楽畑出身ならではのアカデミズムをちらちら垣間見せては、徒に人心を惑わせるとは不届き千万、いつの日か成敗してくれるわ!

矢張り体調芳しくなければ、酒を飲む気分にもならず、楽屋にて用意されしケータリングのマスカットを何故かしら貪り食う始末。フィンランドは北欧中最も美女度が低ければ、兄ィ曰く「う~ん、やる気でないよ」されど丁度到着せし金髪美女姉妹の登場に大いに発奮なされたか。

午後11時、漸く我々の出番と相成れば、先ずは盗まれし十手の代わりとして予備のアームにてグリッサンドすれども今ひとつ、先程購入せしドルフィンちゃんを駆使すれば、当初の思惑通りには音が出ずとも、予想外の効果音なんぞ得られればいとをかし。昨夜観賞せし初期Black SabbathのDVDにすっかり感化されし田畑君、矢張りあのOzzyのアクションが大炸裂、ベース弾く手を休めてでさえ手拍子やらピースサインやらジャンプやら「Let’s Go!」やらを繰り返せば、これには客も大いに盛り上がる。流石ロックスター、これにて遂に田畑君の眠りしロックスター魂が開眼か。ギターへ久々のチョークスラムにて幕、アンコールは一昨日に引き続きフィンランド語による「Na Na Hey Hey~ Moi Moi Metal」なれば、今宵も客席は狂乱と化す。御蔭で久々にShopzoneの売り上げも好調にして、社長田畑君も笑顔なるや。

午前2時半、今宵も2班に別れて投宿とかで、私と田畑君とせんせいの3名は、以前Floating Flowerを収録せしコンピレーションCD「Surrounded By Sun」をリリースせしレーベルFonal Recordsオーナー宅へ、兄ィと東君はJouko宅へ。我々3名は、Jussiから受け取りし2nd「Anthem of The Space」をプラケースからバラし再梱包、これにて明日のフライト対策も万全なり。夜食に再び焼きそばを作り食せば、ここで遂に日本から持参せし七味500gも尽きれども、当初の予定通り何とか1ヶ月は保ったか。

明朝は早い出発なれば、起きし刹那に朝飯を作らんと、キッチンの床にて午前4時就寝。

(2005/9/23)

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