『人声天語』 第123回「文句垂之助の欧州地獄旅(AMT &TCI 欧州ツアー2005)」#17

7月2日(土)

午前7時起床、昨夜就寝時はあれ程暑苦しく寝苦しけれど、明け方ともなれば何と冷え込み、あまりの寒さに扇風機を消し、ブランケットに包まらねばならぬ有様。
シャワー後、さて昨夜より楽しみにせし朝飯は、生うどん+出汁+永谷園のお吸い物を駆使し松茸風味うどんを食さんと思えば、うどんを茹でている隙に矢張り納豆をも頂かんと思い立つ。さて納豆のパックを開けてみるや、手に付着せしタレの味と納豆の匂いのみで、いきなり逝きそうにして、納豆好きを自負しながらも実はピュア納豆の粘りと匂いが些か苦手な私なれば、納豆を食する真の醍醐味、遂にここに開眼せしか。おお~っ、ピュア納豆が斯様に香しく美味たるを今の今まで知らぬとは、我ながら愚か者にも程がある。日頃納豆を食する際は、大根おろしや生玉子と混ぜ合わせ、あの粘りと匂いを緩和せんとしておれど、「美味しい納豆の食べ方」に於ける私の大いなる過ちとは、納豆を御飯と綺麗に混ぜ合わせ食せし事なり。即ち納豆混ぜ御飯の如きにすれば、あの粘りも匂いも緩和されるのであるが、それ故に納豆本来の味わい大いに希薄となり、実は納豆そのものの味が何たるかを知らなかったと云う愚かさ。今初めて納豆をピュアな状態にて啜り上げれば、何と美味なる事か。たった今より、納豆は生玉子や大根おろしで和えようが、御飯の上に乗せるに留め、所謂おかずとして頂かんと決意せしものなり。そしてお待ちかね松茸風味うどんを啜れば、嗚呼、矢張りうどんは美味い。

昨夜は我々が納豆を食しては恍惚感に酔いし様を横目にて眺むるのみなりし兄ィも、今朝は遂に満を持して納豆パックを開封。それも何と豪快に、赤飯+W納豆と云う布陣にて臨まれれば、兄ィが発せしは唯一言「う~ん」如何なる言葉も不要の美味さなるか。

Olivierの書棚にて見つけし小島剛夕の「かすり花」全4巻を読破。その様子を見て彼が「これ面白いの?日本人の友人が『これは面白くない』って言ってたんだけど」と問うて来る故、彼に小島剛夕が如何に偉大な漫画家でありしかを説明し、またこの作品は、日本古来の文化や思想、そして当時の社会背景等にある程度精通しておらねば、その面白さが判る筈もない事も告げれば「じゃあ大事にするよ、ありがとう」思想や哲学なんぞ全く内包せず、アホ極まりない短絡的ストーリーしか持ち合わせぬ、若しくはエロとグロテスクな残酷描写のみたる、近年のしょうむないアニメや漫画しか存ぜぬ彼が、これにて日本が誇る漫画文化の真骨頂に少しでも興味を抱いてくれれば、このフランスに於けるアホなJapanimationやらMangaやらのブームが如何に不毛か、いずれは理解してくれようか。

先程うどんを食せし筈なれど僅か2時間で再び空腹なれば、今度は納豆+赤飯にて頂く。赤飯のモチモチ感と小豆の食感に、食感の全く異なる納豆が合わされば、何と摩訶不思議なるハーモニーを奏でしか。口の中に広がる納豆の粘りと赤飯のモチモチ感が核反応を起こすや、両の耳からキノコ雲さえ噴き上がるが如し、来るべき納豆の新時代、いよいよもって幕開けんか。


矢張り兄ィも空腹なるか、今度は海苔やら出汁やらでアレンジせしラーメンを食しておられる。

田畑君は、即席ラーメンと麺つゆを用いての納豆つけ麺、納豆そばが美味いのであるからこれも美味いのは当然か。何処ぞの新感覚ラーメン屋なんぞにて出せばヒットしそうな逸品か。

せんせいは、生麺タイプのカップ天婦羅うどん+赤飯+おにぎり+納豆と云う、豪華絢爛朝飯フルコース。

ツアーにてダイエットを目論みし田畑君は、誰の目に見ても確実に痩せておられれば、往年の美少年ぶり復活か。

一方飽くまでもマイペースにて食にこだわり続けし兄ィは、この過酷なツアーに於いて見事2kg増量。「ハハハハ、太っちゃったよ!」

正午過ぎ、再び荷物全てを抱えOlivier宅を出発、今宵の会場Mains d’Oeuvresへ地下鉄にて赴く。駅から会場までは結構な距離あれば、地獄の業火に焼かれるが如し猛烈な酷暑の中、重量級の荷物を携えての徒歩移動はあまりに過酷を極めし。「何でこんな暑いねん!」

漸く会場に到着すれば、東君も既に到着しており、先ずはワインを頂く。今宵は「Mo Fo Festival #5」なる数日間に渡るフェスティバルにして、昨日や一昨日には、PastelsやTeenage Fanclubなんぞも出演せしとかで、全日程チケットは既にソールドアウトとか。我々Acid Mothers Temple & The Cosmic Infernoは、その最終日のヘッドライナーと云う訳なり。

さて用意されし昼食は、フランス名物バケットサンドなれば、この代物を最も忌み嫌う私は当然拒否、兎に角中身がレタス1~2枚にチーズとハムのみなんぞと云うお粗末さにして、パンも固く、味らしい味もなければ、矢張りフランス人の味覚なんぞ糞以下なり。コーラ+レモンこそが活力の源たるせんせいは、いつ何処に於いてもコーラを飲んでおられ、実はコーラこそが最も迅速にエネルギーとなり得るエナジー飲料だとは、あまり知られておらぬ事実にして、故にマラソン選手等もスペシャルドリンクとして、炭酸を抜きしコーラを用意しておれば、それを知るや兄ィ「ホント?ちょっとコーラ貰ってもいい?」とコーラを飲みつつバケットサンドにかぶりつき、その様を眺めし田畑君は「食べよかな、でもダイエットしてるから、どうしよかな」と散々迷いし末、赤ワイン片手にバケットサンドを頬張りて、更にはポップコーンやフライドポテトまで平らげる始末。

サウンドチェックと相成るや、矢張りロック不毛の土地フランスなれば、エンジニアは御他聞に漏れずド阿呆野郎、いきなり田畑君に向かい「ベースの音がデカい!」これは云わずもがな私のギターについても同様の苦言を呈するは必定なれば「ベースがデカいって、この音量でええねん!グダグダぬかすな、このハゲ!」完全におちょくって腐れレゲエを演奏、御蔭でこのクソ野郎も「レゲエならベースがデカくて当たり前か」と前言撤回にて納得、されど我々斯様に不毛なサウンドチェックなんぞ到底やってはおれぬ故、僅か30秒程にて「OK, Good sounds! Merci!」と片付け出すや、彼も自分の仕事ぶりに満足せしか、すっかり御機嫌の様子。アホぅ、まあ本番になったら目にもの見せたるからな!会場内には2カ所のステージが組まれ、交互に演奏とセッティングを行う、所謂典型的なフェスティバルのスタイル。スタッフやら出演者やらの賑わいが、如何にもフェスティバルらしい雰囲気を醸し出せど、斯様な空気は最も苦手なれば、楽屋に機材を放り込み、手回り品を携えさっさとホテルへチェックイン。
流石にホテルはクーラーも効いておれば頗る快適、如何に気温35度を越えておれども、日本の夏程湿度がない為か、一般にクーラーの使用は店舗とホテル程度に限られし様子。フェスティバル側が用意せし今宵の晩飯は、不味そうなパスタの類いかと既に伺い知っておれば、「京子」にて購入せし生うどん2玉とレトルトカレーにて、兄ィが持参する携帯電熱鍋セットを拝借、この携帯電熱鍋セットならば、電源さえあれば調理し得る故、カレーに出汁を加えてカレーうどんとして頂く。嗚呼、何とも美味なり。あんな不味そうなパスタなんか食ってられるか云うねん!

明日はフライトが早朝の為、多分今宵はあまり眠れぬであろうと、クーラーの中、今のうちにと心地良く昼寝を決め込む。

午後7時、会場に戻れば既に大層な賑わい。田畑社長の、そこいらのポン引きのオッサンよりも遥かに質悪かろう、壮絶なる強引な客引きパフォーマンスのお蔭か、SHOPZONEの設営場所は決して良いとは云えねども、集客率非常に高し。

晩飯は矢張りラザニアなれども、あまりの不味さに全員僅か一口にて悶絶死。カレーうどん食うといて正解。

昨夜納豆を肴に焼酎を心行くまで楽しまんとせし東君なれど、実は投宿先がパーティー状態とやらで、オチオチゆっくり焼酎を飲むに至らず、フランス人に薦めし処で「不味い」と一蹴され、ならば今宵ホテルにて楽しまんと目論んでおれども、不覚にも昨夜の投宿先の冷蔵庫に忘れて来ると云う間抜けぶりにして、然らば電話にて会場まで届けて貰おうなる魂胆抱けば、無情にも連絡つかず。「きっと今頃、『なんじゃこれ?うげえぇ!不味い!』って納豆諸共ゴミ箱に捨てられてるわ…嗚呼、俺の納豆と焼酎…」結局納豆を肴に焼酎をと云う彼の夢は、儚くも散りしかな。
楽屋に用意されし驚異的に不味い白ワインを飲んでおれば、ここはホンマにフランスか?との疑問さえ湧いて来る程にして、斯様な折にOlivierが日本酒を差し入れてくれるや、そのあまりの美味さに一瞬にして空となる。

XavierやらSatokoさんやらその他多くの知人友人とも再会。それにしてもフェスティバルとは大いに退屈なれば、大抵観るべきバンドなんぞあろう筈なく、斯様なバンドにさえ熱い拍手を送るオーディエンス、果たして信用し得るのか、これこそ海外ツアーに於ける大きな疑念であり、海外にてライヴを行い「ウケた」等と糠喜びしては得意面晒せし阿呆な日本人ミュージシャンとは、そのオーディエンス以上に阿呆であろう。

鮨詰め満員御礼にしてクーラーも効いておらねば、既に尋常ならぬ蒸し暑さの会場内、何もせずにSHOPZONEに座するのみでさえ、流れる汗が止まらぬ有様。これではステージ上なんぞ一体どれ程の灼熱地獄と相成るや。嘗てPhiladelphoaにて灼熱地獄ライヴを行いし際、あまりの暑さと湿度故に、何とエフェクター上に水が溜まりし沙汰もあれど、斯様な地獄の責め苦にも思える状況だけは何とか回避したい処。(第107回「旅姿4人衆ぶらりアメリカ彷徨記」#12参照)このフェスティバルそのもののヘッドライナーでもある我々、午後11時過ぎに漸くライヴ開始。ステージ上は、矢張りあまりの暑さ故に、開演30分程で既に動悸が相当激しきを自覚、満員御礼の客が踊り狂う故、会場内の室温と湿度も更に上昇すれば、これはかなりヤバい予感。あの糞エンジニアへの気兼ねなんぞ当然無用にして大爆音にて大暴れ、「Pink Lady Lemonade~OM Riff」を以て1時間半直球一本勝負、ギターにチョークスラムを決めるや是にていよいよ体力の限界、酸欠1秒前にしてステージ上にて崩落轟沈、されどバンドはそれでも尚演奏を続けておれば、ジ・アンダーテイカー宜しくSit Upにて復活、再びギターを弾き捲り、WWEの特番の如く今宵2度目のチョークスラムにて漸く幕。死ぬ気のアンコールは「Na Na Hey Hey」大合唱。
終演後、完全に酸欠状態なればステージ上に大の字状態にてダウン、起き上がる事さえ不可能なり。一方大暴れし続けし東君は楽屋で吐血、これこそこの夜の過酷さを物語るか。

ホテルへ戻りてシャワー&洗濯、明日は午前5時起床なれども既に現在午前3時、大慌てにて就寝。

(2005/9/24)

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