『人声天語』 第123回「文句垂之助の欧州地獄旅(AMT &TCI 欧州ツアー2005)」#2

6月3日(金)

午前6時半起床。田畑君はレトルト中華丼を食べたそうだが何とも不味かったそうで、経験上語らせて貰うならば、レトルト食品は矢張りカレーに限る。朝飯として、素麺を茹で納豆ふりかけと粉末うどん出汁と七味を加え、即席納豆素麺を作り食せばなかなか美味なれど、冷蔵庫より玉子1個を拝借し落としてみれば尚美味なり。これは本物の出汁と納豆を使えば、日本でも充分食したき逸品か。されどこの永谷園の「納豆さまさま」なる納豆ふりかけは、御飯等に混ぜ合わせれば香りどころかぬめりまで再現される逸品なれば、今回のツアー出発直前に行きつけの激安スーパーヨシムラにて偶然見つけしものなれど、今後ツアーに於けるスーパーマストアイテムと化すは間違いなし。

順次皆も起き出し、せんせいはまたしてもレトルトカレーを、東君は素麺を、兄ィは高野豆腐と切干し大根入り特製ラーメンを食しておられる。

近所のスーパーに出掛け輪ゴムを購入、皆でTシャツをサイズ別に分けつつ輪ゴムで1枚ずつ丸める。これはアメリカ等で見受けるプレゼンテーション方式なれば、これがなかなか販売する際に効率よし。サッカー好きの東君と田畑君は、延々と本日行われるワールドカップ・アジア予選の日本対バーレーン戦について熱く語り合っておられれば、何でも田畑君の母君は、ヨーロッパ・ツアーなんぞではなく、果たしてワールドカップ・アジア予選を平壌まで観に行っておると勘違いしておられたそうで、そもそも日本対北朝鮮戦はバンコクにて開催される筈なれども、まあ何とも幸せな話なるか。シャワー&洗濯も済ませれば、プレステを神と崇めしGlynさんが、ただひたすら車を盗み捲り人を殺し捲るゲームに興じる姿を観賞、道行く人を機関銃やらロケットランチャーやらで殺戮しては、駆け付けし警察官とカーチェイスやら大銃撃戦を展開すると云う至ってシンプルな内容。斯様な内容のゲーム、果たして日本でも発売されているのやら。

午後1時半、Benが到着。楽器や商品群をバンに積み込み、Glynさんに暫しのお別れを告げ、一路Bristolを目指す。ペットボトルに詰めし緑茶を飲みつつ日本より持参せし歌舞伎揚げをつまめば、嗚呼、郷愁の味…大好物のぼんち揚げが猛烈に恋しくなりにけり。給油休憩の際、兄ィはミートパイの如きを購入、お味の方は「まあまあ」だそうなれど、兎に角サンドウィッチの類いが800円程度もするのであるから、「まあまあ」では本来割が合わねども、全く口に入れる事さえも不可能なる激不味サンドもあれば、まあその程度で納得せねばならぬのが実情なり。イギリスでの生活経験ありし某女史は「イギリスは食べ物結構美味しいんですよ」なんぞと宣われれど、ならば一体何処に塩サバ定食より美味いものがあると云うのか。そもそも魚をFish & Chipsにしか料理出来ぬ毛唐なれば、料理されし魚の方が不憫でならぬわ。
午後4時、今宵の会場であるMarcolm X Centreに到着、建物正面には確かにマルコムXの肖像画が大きく描かれておれば、「黒人はアフリカへ帰れ!」なんぞと酩酊しては失言せぬようにせねばならぬか。今宵はVENN FESTIVAL 2005と云う週末3夜連続のイベントにして、どうやらON-U Sound系のイベントの様子なれば、その3夜連続ヘッドライナーとして出演せしは、此処Bristolが誇る時代の寵児、元Pop GroupのMark Stewartなれど、当初はPop Groupが出演すると告げられておれば、大いに再結成Pop Groupお目に掛かりたけれども、結局その話はお流れになりて、元Tuck Headのメンバーが脇を固める様子。バンから機材を降ろし搬入しておれば、身の丈2m程の巨漢中年男が「Hello! My name is Mark Stewart」と挨拶に来られ、皆で「おお~っ、でかいなあ!」と思わず見上げる有様。
サウンドチェックまで時間がある故、Benとせんせいと近所を散策、パブにてビールを呷る。Benはその筋ではかなり有名なパンク・ギタリストにして、数年前にツアードライバーを務めて頂きし折、「来月自分のバンドThe Toneで日本へ行くから」と云っていたので名古屋公演の会場へ顔を出せば、いやはやパンクキッズにて満員御礼、まるでPUNK HERO from Londonにして、終演後も外タレ然とVIP扱いなれば、彼の異なる一面を垣間見し私の驚きようなんぞ、さぞや周囲に間抜け面晒せし事であろう。何でも先月も来日公演を行っており、ギャラのみならず旅費からホテル代も全てプロモーターより支払われしとか、実は我々よりも遥かに高待遇なるや!また今夏は、Sham66やらSteve JonesやらGBHやらも出演すると云う、LAにて行われる大規模なパンク・フェスティバルにも招聘されているとか。さて彼とはどうやら同世代なれば、70年代末から80年代初頭にかけてのパンク&ニューウェイヴ興隆について話に花が咲く。況してやLondonにてリアルタイムで体験せし彼のパンク話はいとをかし。
会場に戻りサンドチェックと相成れば、ステージ上にはMark Stewartの機材が拡げられしままにして、斯様な有様では当方ツインドラム故にセッティング出来ぬは明白なり。況してや何でも先達てのRolling Stonesのワールドツアーのベーシストも務めし黒人ドレッド野郎のエフェクター、一体ベースで何でこんなぎょうさんのエフェクター要んねんと文句も云いたくなるが如きその幅1m以上に及ぶペダル群、斯様なものを放置されては全くスペースもなく、されどオルガナイザー曰く「セッティングをこのまま動かさないように」とは、わしらをおちょくっとんのか!結局現状のままでは我々演奏をする事「impossible!」と、有無を云わせず撤去させれば、その他アンプ群も移動させ、ドラムセットは使い回しさせてもらうと云う事で、何とか無事セッティングも完了すれども、今度は糞ミキサー野郎曰く「ギターの音がデカ過ぎるので下げろ」とは、お前はただフェーダー全部全開にしとけばええねん、ボケがぁ~!わしらはレゲエバンドちゃうど!またしても「impossible!」と一蹴すれば、せんせいにすっかりこの「impossible!」が気に入られてしまった様子。昨日見事解消せしと思いしエフェクターのトラブルが再発、何処が問題なのか幾らチェックすれどもさっぱり判らぬ不可解さなれば、2個あるBossのリバーブのうち、一番怪しき1個を外し、また怪しげなケーブル2本も交換すれば、取り敢えずは何とか大丈夫そうな気配。何につけても機材トラブルは苛々させられる故、一刻も早く原因究明し解消したき処。
サウンドチェックも終了すれば、楽屋に夕食がセッティングされておれども、我々が最も忌み嫌うベジタリアン料理にして、況してやイギリスなれば不味い事この上なけれども、何とも空腹なれば、何とか食えそうな物を選び食す。


ワイン片手に楽屋に居れば「俺はPop Groupの2ndでベースを弾いた」と云う男性が話し掛けて来るや、おおっ!Simon Underwoodかと思いきや別人なれど、元Glaxo BabiesのギタリストDan Catsisで、嗚呼、遠くなりにけりニューウェイヴ聴きし日々。今宵彼はMark Stewartのバックでサックスを吹くらしく、またPop Groupが活動せし頃のBristolの話なんぞ伺い知る事も出来た。
今宵も売る気満々の田畑君がSHOPZONEをオープン、されどダンス系イベントなれば、その熱き思いも空回りにして、今ひとつの売り上げなる。退屈なネオアコっぽい前座バンドを眺めつつ、旧き良きブリティッシュロックの魂は、既にイギリスにては絶滅せし事ここに再認識すれば、呪わしくはその元凶たるパンク&ニューウェイヴか。

退屈なDJの後、午後9時50分、既に満員御礼の中、漸く我々のライヴと相成る。今宵はダンス系イベントにして演奏時間も短ければ、「Pink Lady Lemonade ~ OM Riff」の55分間1曲勝負に打って出んと、宇宙音に導かれしPink Lady Lemonadeのリフに、詰め掛けし多くのAMTファンからは歓声さえ上がる。ひたすら大爆音にて大暴れ、弾き捲り&叩き捲りの狂乱のセットの締めは、ギターに久々のチョークスラム。終演後、Mark Stewartが駆け寄りて、熱く「You’re Fuckin’ great!」と握手を求めて来れば、20数年前にPop Groupの1st「Y」を初めて聴きてショックを受けし頃、一体斯様な顛末誰が想像し得たやら。
続いてMark Stewartがステージに登場、バンドはしょうもないサイバーダブであれども、彼の声も節回しも往年のPop Group時代と何も変わらず、ワンパターンにして唯一無比、結局バックバンドなんぞ何でもよろしかろうと云う点については町田町蔵と同じか。片手にマイク、もう片手にタオルと云う、何ともおっさん臭い姿なれども、あの独特の動きは紛れもなくMark Stewartその人なり。

そしてあの黒人ベーシストであるが、あれ程のエフェクター、さぞや効果的に使い分けるのか(そんな筈あるかい!ベースにエフェクターなんか要らんやろ!)と思いきや、ワンポイント・アクセント程度に「ピョ~ン」「プユユユ~ン」「ビョヨヨヨ~ン」とは情けない事極まりなく、ベーシストの風上どころか風下にも置けぬ有様にして、これでRolling Stonesのツアーベーシストとは、いやはやストーンズも老いたわ。そしてミキサーのAdrian Sherwoodに対し、田畑君からは痛烈なメッセージ。

Mark Stewart終演と同時に、会場はDJによりディスコ化、その騒ぎの中、こちらは機材を搬出。

今宵の投宿はホテルなれども、ダブルベッド2台の1部屋なれば、自炊希望の我々は、東君とせんせいのみをホテルへ残し、誰かよく判らぬが多分関係者の1人であろう男性の家にて投宿。先ずは洗濯を済ませ、何か夜食でも作らんと台所へ赴けば、この家主がマッシュポテトのチリソース和えを食しており、勧められるまま食せばなかなか美味なり。すると彼はアコースティックの12弦ギターを持ち出し、これを弾いてみてくれと懇願する故、ポロポロと爪弾いておれば、彼もアコギを持ち出し「セッションしようぜ!」何ィ~っ、悪夢やんけ!15分程台所にてセッションすれば「ありがとう、素晴らしかった。録音しておけばよかった…」せんでええわ、そんなもん。借受し寝袋に入り、ソファーにて午前3時半就寝。

6月4日(土) 兄ィの誕生日

午前7時半起床、シャワーを済ませ、朝食は再び納豆出汁マヨ素麺を食す。更にお弁当として、レトルト真空パックの御飯を温め、中身のみをビニル袋に詰め日本より持参せしカレーヌードルを作り、七味を打っ掛けタッパに詰め込めば、これにてカレーヌードルライス弁当の出来上がり。汁を少なめにして味を濃い目にすれば、容易にカレールーの代用となるは、嘗ての貧乏生活の知恵からなり。

本日誕生日の兄ィは、先日スーパーにて購入せしイギリス名物激不味カップラーメンPotとオイルサーディン缶を食しておられれば、矢張りPotのあまりにもな激不味さの洗礼に根を上げられ、台所にて見つけしビネガーとチリスースにて風味を加工、何とか食せるようになられし様子。折角の誕生日なれば、何とも哀しい幕開けなり、いやはや申し訳ない。


家主が「レコードは好きか?」と尋ねる故「Why not!」と答えれば、隣の部屋に我らが呼ぶ処の通称「かすレコード」がある故、欲しければ持って行けとの事で、ならばとばかり、兄ィと田畑君と共にその大量のかすレコード群を漁れば、私は結局しょうむないムードミュージック等計27枚を抜く有様、何しろタダである、タダで貰えるもんは何でも貰う、我ながらまるで大阪のおばはんである。この家主、相当のロック阿呆の様子にして、壁にはFamilyとTasteのポスター(津山さんが居たならば如何程欲しがっただろう!)が貼られ、その他にもそこら中にロックポスターやらEPやらが展示され、ええ歳のおっさんがまるで中学生の如きであれば、ブリティッシュロックの魂、ここに辛うじて生き続けていたか。ところで兄ィ曰く、この家主は然程歳をとってないであろうとの推察なれば、それと云うのもレコード棚に並べられしレア盤が、全て最近の新しいリイシュー盤なればこそとか、流石目の付け処が違いますな。

さて午前11時、東君とせんせいの待つホテル階下のカフェへ。東君は昨夜のワールドカップ・アジア予選の結果が気になって仕方がない様子なれば、既に電話にて結果を知りし田畑君より私も結果のみ聞き知っておれば、「どうやった?」との待ちきれんばかりの東君の問いに「残念やったね~」と笑顔で答えし。東君曰く「非国民!」にして日本チームを全く応援せぬ私の心境を熟知する彼なれど「えっ!負けた!?」一瞬涙さえ浮かべんと思わせれば、良心の呵責さえ感じ「勝ったで、日本…」勿論大喜びは云うまでもなく、後は田畑君と延々とサッカー談義に明け暮れる有様。田畑君とBenはここでブレックファーストをオーダー、相も変わらずソーセージとベーコンにベイクド・ビーンズとマッシュポテト、そして目玉焼きとトーストと云う、我々が云う処のイングリッシュ・ブレックファーストは800円也。

カフェの近所の店にて、野菜ジュースV8を発見、これにてビタミン補給せんと思わば纏めて5本購入、隙あらばV8を飲まん。

さてManchesterへ向け出発、車内は未だ乾かぬ洗濯物がそこいらに吊るされている状態。途中のサービスエリアにて、東君と兄ィとせんせいの3名は、遂にイギリス最後の良心バーガーキングへ突入、背に腹は代えられんと1000円もするハンバーガーのセットを貪り食っておられる。されど1000円のハンバーガーセットと800円の激不味サンドならば、迷う事なく1000円のハンバーガーを選ぶ事間違いなし。


私は車中にて、カレーヌードルライス弁当を食せば、些か単調な味に飽きて来る次第、そこは冷えたレトルトハンバーグをぶち込みて、そのタレの甘みがまたカレーの辛さと絶妙なハーモニーを醸し出すや、瓢箪から駒、これは美味いわ。

午後4時、無事にManchesterに到着すれども、今まで500回以上此の地を訪れ殆どのクラブの所在も熟知せしBenですら、全く名前さえ聞いた事がないと云う今宵の会場Levenshulme Bowling & Social Club、地図にて探しつつ辿り着かんとすれども地図にも載っておらねば、この辺りであろうと云う処にて、通り掛かりの人々に尋ねし処で矢張り誰も知らず、結局オルガナイザーNickに電話し迎えに来て貰う顛末と相成る。それにしても誰も所在を知らぬ場所ならば、客にした処で誰も来れぬのではあるまいかと、ふと不安にもなる。Nickを待つ間、車を路肩に駐車しておれば、通り掛かりの少年にサインをせがまれるが、今更なれど彼ならば会場の所在を知っていようものか。電話より10分後、Nickが到着、彼の先導にて走り出せば、まさしく目と鼻の先ではあれど、到着が早過ぎ未だ扉は閉ざされており、Nickは今宵の準備に奔走している様子にて一旦別れ、我々は今宵の投宿先となる此処から徒歩5分程のNickの友人宅へと向かう。
投宿先はNickの友人の弁護士宅、冷蔵庫いっぱいに用意されているビールは嬉しい限り。せんせいは個人物販CDRのジャケットをヴァージョンアップ、CDRの制作に勤しんでおられる。この家のCD棚を眺めるBen曰く「こりゃあ酷いコレクションだ!殆ど50ペンスぐらいのカスCDばかり!」と頭を抱えておる故、まさかAMTもあったりしてと笑っておれば、AMT & TMP U.F.O.の2nd「Pataphosical Freak Out MU!!」を田畑君が発見、更にはZeni Gevaも並んでおれば「どうせわしらカスですから…。」「でも同じカスになんねやったら、トンプソン・ツインズとかぐらい売れてカスになりたいなあ…売れへんでカスって一番情けないわ…。」
午後6時、再び会場に戻りサウンドチェックと相成れども、2台のドラムに対しシンバルが1セットしか用意されておらぬ。Nickは用意出来なかった理由を弁明しておれども、幾ら希望銘柄のビールを用意してくれようが、兎に角シンバルがなければ話にならぬ、彼のこれで何とか演奏して貰えぬかとの問いに、私は再び「impossible!」と答えざるを得ぬ。「You MUST arrange one more cymbals!」と告げるや、彼は「you MUST…」と繰り返しつつ、もう1セットのシンバルの手配に何処へか消え行く。今宵は前座があるらしく、何でもSan Franciscoのバンドとかで、元SubArchnoid SpaceのMason Jonesとも知り合いだとか、ならば彼等からシンバルを借りようと尋ねれば「ビンテージ・シンバルだから貸せぬ」と一丁前な口調でほざきくさる。ビンテージ・シンバルって何やねん!何にせよ了見の狭き糞アメ公である。そもそも何故アメリカの糞バンドが、機材を提供する訳でもなしに、イギリスはManchesterにて我々の前座を務めるのか。結局Nickの尽力の結果、無事にシンバルは揃い、漸くサウンドチェック開始。すると再び私のエフェクタートラブル勃発。どうやらBossのディレイに原因があるように思え外してみれば見事解決。重たい思いをしてまで日本より持参しておれば、連日のエフェクター戦力外通知はいと空し。東君もBossのリバーブが壊れたらしく、今までの数多き海外ツアー経験上、Bossのコンパクトエフェクターが壊れる事は殆ど皆無なれば、Boss製品には絶大なる信頼を抱いておれど、この今回のBoss製品の不具合ぶりは何たるか。電源よりBoss製品殲滅ウイルスでも流されているのではあるまいか、思わず斯様な疑念さえ抱いてしまう始末なり。
今回のツアーの為にと、海外でも使えるvodafonの新しい携帯電話を購入せし兄ィは、何故か未だ一度たりとも通話どころかメールの送受信さえ出来ず、「今London!」なんぞといちびったCMを流せしvodafon、これでは全くもって詐欺行為ではあるまいか。何でも海外で使える機種は、バッテリーの保ちも通常機種に比べ悪いらしく、それやったら何もええとこないやんけ。サッカーマニアの田畑君曰く「vodafonってマンチェスター・ユナイテッドのスポンサーやのに、そのManchesterから通話出来ひんってどういう事やねん!」
ここLevenshulme Bowling & Social Clubは、その名の通りボーリング場と社交クラブが合体せし由緒正しき社交場なり。ボーリングとは、所謂我々の知るボーリングにあらず、芝生の上にてボールを転がす英国紳士のスポーツなれば、社交クラブ内のバーの壁面には、かれこれ100年以上にも渡る当ボーリングクラブの歴史が垣間みられる資料等が飾られている。社交クラブは、会員制ビリヤード場、バー、一般客用ビリヤード、そして催し物を行うホールにて構成されておれども、閑静な住宅街に位置すれば、夜中に斯様な爆音を出して果たして大丈夫なのであろうか。

さて弁護士宅にて夕食、料理好きの彼が腕を振るって作ってくれしタイ風豆カレーとサラダ。辛さは全くなけれども、これは充分及第点の出来にして、皆で貪り食えば、作った彼もすっかり御満悦の様子。今回のツアーに限り麺類しか持参しておらぬ東君曰く「やっぱり米や、米!」続いてデザートとしてケーキも出て来れば、甘党の私とせんせいは、このケーキに大いに舌鼓を打つ。


空腹が満たされれば今度は商売である、すっかり商人魂に火が付きし田畑君の下、SHOPZONEをオープン、果たして今日の売り上げは如何なるや。
黒人DJの退屈なパフォーマンス後、例の糞アメ公共の演奏が始まるや、果たしてビンテージ・シンバルの音とは是如何にと思えば、笑止千万、単なる糞シンバル、シンバルとギター弦にビンテージなんぞ必要なし。聴くにも耐えられぬ酷い音楽なれば、その容姿も禿のおっさん連中にして、ここにアメリカン・ロック魂はまるでなし、そもそもポストロック以降のアメリカに、熱きロック魂は既に絶滅済みか。この糞アメ公共のあまりのクソしょうむない演奏と、シンバルさえ貸さぬ了見の狭さに、私はこいつらのビールを勝手に頂戴し、僅かばかり飲んでみてはそこらに放置し、また次の缶を開けて僅かばかり飲んでは放置と、まるで悪ガキの如きセコい厭がらせを繰り返す。「お前らに負けたんは戦争だけじゃ」とはせんせいの弁。

さて午後10時半、漸く我々のライヴと相成れば、客入りもほぼ満員御礼、今宵も大爆音にて大暴れ、「Triger In Triger Out」「Anthem Of The Space」「Pink Lady Lemonade ~ OM Riff」にて1時間半を突っ走り、ラストは今宵もギターにチョークスラムを食らわせ幕。「OM Riff」にて、興奮が絶頂に達せし客の一人が乱入、せんせいのライドシンバルを一緒に叩き始めれば、せんせいが大激怒、中指を突き立て「Fuck You!」今にも殴り掛からん勢いなれば、流石にその客も叩くのを止め客席最前列で大人しく踊っておれども、せんせいの怒りは未だ収まらず「Go Out!」と退去を命ずる有様。結局終演後、Nickの友人でもありしこの客の深き謝罪に、漸く恩赦を与えしせんせいであった。
終演後、早々に機材を撤収し搬出、バーテンの兄ちゃんにウォッカ1杯を御馳走になる。これぞバーテンの鏡なり。

投宿先である弁護士宅に戻れば、今宵ライヴに来てくれていた彼の友人達と共にビールを呷る。本日は兄ィの誕生日なれば、皆で乾杯。

ビールのアテにと、私が必殺アイテムきゅうりのキューちゃんを振る舞えば、この郷愁を誘う味を皆で噛み締める。まともな味覚さえ持たぬイギリス人共が、キューちゃんについて「甘い」「海藻みたいな味」と一丁前に批評なんぞしくされば、「おちょくっとんかお前ら、出汁が何たるかも知らんお前らに語る資格一切なし!」
午前2時、一旦ベッドに入れども、あまりな悪夢に魘されるや目覚めてしまい、再び階下のリビングにて田畑君と東君と弁護士と4人にてビールを呷る。その悪夢の話をした処、丁度彼等はその内容に似たような事を話していた処とかで、おおっ、これはシンクロニシティー!結局午前4時就寝。

(2005/8/23)

Share on Facebook

Comments are closed.