『人声天語』 第123回「文句垂之助の欧州地獄旅(AMT &TCI 欧州ツアー2005)」#4

6月7日(火)

午前6時半起床、先ずはシャワー&洗濯。未だBenと田畑君は寝ておれば、独りで朝食を取らんと階下のレストランへ赴く。イギリスと云えば朝食がヘビーな事で有名なれど、周りを見渡した処で、皆トーストやら果物やらを食しているのみ、スコットランドはイングランドとは異なるのやらと思いつつ席に着く。例によってバイキング形式なれど、見当たるはシリアルと果物とヨーグルトとオレンジジュース程度、ならばとシリアルと果物にて腹を膨らまさんと食らっておれば、ここで漸くホテルの主人が現れトーストを運んで来る。成る程矢張りトーストもあったか。早速トーストに食らいついておれば、今度は「これがスコティッシュ・ブレックファーストだ!」と、主人が笑顔で大皿を運んで来る。何とベーコンにソーセージ2種、目玉焼きと焼きマッシュルームに焼きトマト、これは所謂イングリッシュ・ブレックファーストなんぞよりも更にヘビーなラインナップではないか。日本男児斯様な事では根を上げぬと、果敢に挑めば何ともグリーシー。所謂日本の朝飯、御飯+味噌汁+漬物+焼魚若しくは納豆等、ヨーロッパ人にとっては随分ヘビーに感ぜられるらしく「朝から米や魚を食べるのか!」と驚かれるが、このスコティッシュ・ブレックファーストはその比にあらず。子供の頃より朝から焼肉やらしゃぶしゃぶやらが出る家庭で育くまれし私なれば、朝飯にかなりヘビーな代物を食らうは然程抵抗なけれども、この脂の塊の如きラインナップには流石に閉口、口直しにせめて生野菜なんぞ欲しい処か。果たしてこの朝飯全部で一体何カロリーあるのやら。猛烈に胸焼けしつつも何とか完食、スコットランド人の寿命が矢鱈短いのも大いに頷ける。遅ればせながら現れし田畑君も見事完食すれども、矢張り大いに胸焼けしている様子なり。


ホテル入口に咲き誇る花々の写真なんぞ撮影しておれば、主人が「裏のガーデンにもっと色々な花が咲いてるから」と、御自慢のスコティッシュ・ガーデンへと案内してくれる。手入れの行き届いた素晴らしいスコティッシュ・ガーデン、これぐらい広く立派なればガーデニングと呼べようものにして、日本の箱庭にてガーデニング・ブームとは是れ如何に?一層、世界を驚嘆させる盆栽のミニチュア魂とガーデニングを融合させし「ボックス・ガーデニング」なんぞ確立すれば、高齢化社会に於ける未来形トレンドとならんや。

午前9時半に喫煙室組と合流しLiverpoolに向け出発、本日は今回のイギリス・ラウンド最長距離の大移動。途中に立ち寄りしドライブインにてネッシーグッズを発見、ネッシーでさえ例のスコティッシュ帽を冠っておれば思わず失笑。そう云えば怪物サッシーなる長崎海星高校のピッチャー酒井(ヤクルト)っておったなあ、ヨッシーは吉田達也氏かあ、嗚呼、我ながら何と貧困な連想力。ところでネス湖は何処やねん?

このドライブインにて、先程食らいしスコティッシュ・ブレックファーストをそのままハンバーガーにせし代物を発見、ポスターを見るだけでも気持ち悪くなれり。

給油休憩に立ち寄りしガソリンスタンドにて、せんせいはRed Bullを大量購入、「効く」とは本人の弁なれど、今やF-1のチームさえ所持する有名ブランドにして、勿論所謂滋養強壮ドリンクなり。

さていよいよLiverpoolの市街へと辿り着けば、サッカーマニアの田畑君と東君は、フットボールスタジアムを見掛けしのみで大はしゃぎ。御存知の通りLiverpoolは先頃のヨーロッパ・チャンピオンズ・リーグにて優勝しておれば、今宵田畑君は、Loverpoolのユニフォームと同じ赤いTシャツ着用で演奏するとかで、何やら妙な入魂ぶりなり。イギリス・ツアーは幾度も行っておれど、此処Liverpoolを訪れるは初めてなれば、東君は「(サッカー同様に)きっとLiverpoolの奇跡が起こる筈!」と、今宵超爆発的に商品が売れると言い張るが、常に「No Hope」な私なれば「期待するだけ失望もデカいで」と、彼の根拠なき意気込みに水を差す。世の中そんなに甘くない。

午後5時、今宵の会場であるThe Vines Public Houseに到着、イギリスの伝統を大いに感ずるイングリッシュ・パブなれば、早速皆でビールを注文しイングリッシュ・パブ気分を満喫せんとする。


せんせいは、今朝髭の一部を剃り落とし、まるで彼の敬愛してやまぬGinger Bakerの如きなれど、どうやらこの髭はこちらではかなりの悪印象を与えるとかで、通行人でさえ矢鱈と怪訝な顔をするどころか、挙げ句には警察官に職務質問される始末、これはよろしくなかろうと、サウンドチェック前には既に剃り落としておられた。

さてライヴ会場たるはパブ内にある立派なホール、天井にはステンドグラスによるドーム型天窓もあれば、至る所にシャンデリアさえぶら下がりて、壁面には巨大な肖像画なんぞも飾られておれど、どうやら最近はイベント会場として使われているらしく、ミラーボールやら照明器具やらが、格調高きインテリアに無造作に取り付けられており、これまた何とも不思議な雰囲気なり。何でも今宵はライブに併せてサイケデリック・ライトショウも行われるとかで、什器で大掛かりな櫓を組みそこに照明器具を設置、ステージ後方の壁面にはスクリーンとしての白幕が貼られているが、何と肖像画に直接ガムテープを貼付ける蛮行ぶり。何にせよ関係者一同の熱意は大いに感じられれば、果たして今宵Liverpoolの奇跡は起こるのか。

そもそもこのLiverpool公演はツアー直前にブッキングされしものにして、当初予定されしアイルランド数公演がキャンセルとなった為、Hawkwindトリビュートの7″ EPセットの話を持ち掛けしLiverpoolのレーベルMUGSTARからの、ならば是非Liverpool公演をとの熱き申し出により、ここに実現せしもの。Grateful Deadのポスターを作り変えし今宵のライブポスターが、何とも微笑ましいかな。

サウンドチェックを終えれば、夕食はオルガナイザー手作りのインドカレーなれど、例によって味はなし。何故カレーに味がないのか理解に苦しむが、醤油と七味を加え味をアレンジ、実は嘗てインドカレーと日本の所謂カレーライスを同時に作り食べ比べし際、日本のカレーは出汁と醤油の味がする事を発見しておれば、カレーに醤油を僅かばかり差すと是れ至って美味なり。

今宵、兄ィがスネアヘッドを張り替えし際、古いヘッドを売ってはどうかと云う事となり、皆でサインしてSHOPZONEに並べるや、20ポンド(約4000円)なれど一瞬にして売れてしまえば、Liverpoolの奇跡を信じて疑わぬ東君は、これをその兆しと受け取り大いに盛り上がりし様子。私はどうにも体調が優れぬ故、前座の2バンドが演奏中、楽屋にて爆睡。
午後10時20分、未だ寝惚けし私なれどステージに上がりセッティング、今宵は1時間のセットでと云う事なれば「Ponk Lady Lemonade ~ OM Riff」にてぶっ飛ばし、エンディングにてギターをシャンデリアを用いて絞首刑に処さんとすれど、上手く吊るせずチョークスラムにて幕。開演直前まで爆睡していたお蔭でアルコール充填の時間もなければ、殆ど素面にてのライヴは果たしていつ以来やら久しぶりにして、何とも自ら気分を盛り上げる事困難を極めり。されど客の殆どは、私がシャンデリアを壊すのではと気を揉みながらも大いに燃えたとかで、何とも自分の調子とは裏腹に、今宵も盛り上がり無事に終了と云った具合か。田畑君は公約通り赤いTシャツにて演奏しておれど、今宵はMCさえしておらねば、観客も多分その思惑理解しておらぬであろう事明白なり。あまりの爆音なれば、ステージ後方のスクリーンは振動にて見事転落しており、果たしてサイケデリック・ライトショウは如何な具合であったのやら。云うまでもなく東君云う処のLiverpoolの奇跡は起きず、いつも通りの売り上げ具合なり。

終演後、今宵の投宿先となる女性オルガナイザー宅へ。夜食にとピザを振る舞って頂けば、皆でビールやワイン片手にピザを貪る。ふとキッチンの壁にダーツを見つければ、東君と田畑君と共にダーツに興じ、はて気がつけば既に全員就寝しておられる。午前5時就寝。

6月8日(水)

午前7時半起床、洗濯&シャワーを済ませる。朝飯はカレーライス+味噌ラーメン。味噌ラーメンは、カップ麺を分解しビニル袋に密封し持参せしもの、その方が嵩張らず都合良しとは長年のツアー経験から生まれし知恵。それにしてもなんぼ食うても腹が減るとは是れ如何に、矢張り体が真に欲するものを食したし。ツアーに出ると兎に角野菜不足になるのは否めず、何しろ欧米にて売られし野菜の種類とは恐ろしくも乏しい限りにして、根菜なんぞ人参と二十日大根を除けば殆ど見掛けぬ故、蓮根やら牛蒡やらが無性に恋しければ、更にはひじきや山椒昆布なんぞも恋しけり。たとえ一品なれども一旦恋しくなりにければ、止め処なく望郷の念強くなりて、あれもこれも想い始めるや、いよいよもって我慢ならぬ有様となり、禁句である筈のカツカレーやら塩サバやらとついつい口走り始めては、メンバー全員連鎖反応にて苦悶せし顛末なり。東君は納豆ふりかけを駆使しての納豆そばを食せば、これもう堪らぬ状態にして、たとえ納豆ふりかけであれ「あ~納豆美味いなあ!」せんせいは、真空パックの御飯と永谷園のお茶漬け海苔にてお茶漬けを啜っておられども「あかん、こんなもんでは腹膨れへんわ」されどお茶漬けを食せている間は未だ幸せなり。兄ィはレトルトの親子丼か何かを食しておられれば「不味いよ、これ」兎に角レトルト食品でまともに食せし味はカレーのみ、コレ日本ノ常識ネ。
家主である女性オルガナイザーが、エスプレッソマシーンにてコーヒーを入れてくれるとの事なれど、何やら怪し気な手つきにして、挙げ句は丁度起きて来しBenにエスプレッソマシーンの扱い方を尋ねている始末、おいおい大丈夫かいな。こちらの心配を他所に彼女曰く「コーヒー入れるの初めてなの」況やイギリス人故、普段は紅茶を飲んでおられるのにせよ、せめてコーヒーの入れ方ぐらいは知っておいて欲しいもの。されどイギリス人の入れる紅茶とは、何故あれ程薄いのか。あれで紅茶がイギリスの文化だとは笑止千万、ろくに紅茶の味もせぬ白湯を飲んで紅茶の味の云々を語られては、安い賃金にて紅茶を生産しているインド人が何とも可哀想か。さて彼女のコーヒーであるが、この世のものとは思えぬ激不味ぶりにして、口に入れし刹那吐き出すは当然、これでは安い賃金でコーヒーを生産している南米人かアフリカ人かは知らぬが、こちらも何とも可哀想なり。この味を敢えて例えるとするならば、使い古しの揚げ湯の味とでも云えばよいか。

正午、Londonへ向け出発せんとすれば、隣家の表にて、未だ10歳にも満たぬかどうかと云うガキが3人、何とテーブルを囲み喫煙中。一体どないなっとんねん?よくよく見れば随分老けた顔をしており、もしかしてアキラに出てくる被実験体25号(キヨコ)26号(タカシ)27号(マサル)のイギリス版か。されど矢張り明らかに子供にして、子供ならば元気よくサッカーでも興じるが常と思われれば、昼間っからテーブルを囲みて喫煙とは、何と大人びたガキ共であろうか。 さてLondonへ向けBenのファイナルドライブ、途中対向車線にて車が炎上しておれば、すかさず激写。この約1ヶ月後にLondonにて起きし地下鉄爆破テロとは関係なければ、勿論自爆テロにあらず。 

午後5時前、無事にGlynさん宅着、Benとはこれでお別れ。彼は本当に真面目に仕事してくれれば、ヨーロッパ人にしては希有な程時間厳守、機材のレンタル代も安価なればこそ、AMT恒例の特別ボーナスも田畑君から手渡されし。ありがとうBen!

Glynさんから「本日は歯医者に行くので夕方遅くに帰宅する」とのメールを受け取っておれば、玄関先にて待機。兄ィのVodafonが漸く繋がりて、奥さんとの会話も久々なれば「ハハハハ、久しぶり過ぎて奥さんの声忘れちゃったよ」そんな事あらしまへんやろ、この愛妻家!
午後5時50分にGlynさんが帰宅、先ず一旦荷物を部屋に入れれば、両替と待望の日本食レストラン「てんてん亭」へ赴かんとPoccadilly Circusへ。スコットランドにてのギャラは、当然の如くスコティッシュ・ポンドで支払われておれば、この通貨はイギリス国内以外では両替出来ぬ故、絶対に出国までに両替しておかねばならぬ。明日空港で両替との選択肢もあれど、出来ればレートの良い所で両替したきは当然なれば、すっかり御馴染みMoney Centerにてスコティッシュ・ポンドを含めた手持ちポンドをほぼ全額両替。メンバー皆が両替する為、結構な時間を要しておれば、偶然Money Centerの前を通り掛りし男性から「Are you Acid Mothers Temple?」と尋ねられ、いきなり記念撮影なんぞせがまれる始末、よりによってMoney Centerの前とは何とも情けない事この上なし。「We’re the Economic Rock Band!」

さて両替が終われば、いよいよ日本食レストラン「てんてん亭」へ。ここもすっかり御馴染みなれば、Londonに於けるオアシスである事間違いなし。今日一日中ずっと「カツカレーかトンカツ定食か」散々迷っていたのであるが、矢張りカレーの匂いには勝てぬとカツカレー大盛りを注文、今宵はてんてん亭にて豪遊すると決めておれば、更に塩サバときずし(しめさば)の自称「鯖セット」に加え、大好物の茄子田楽、当然キリンビールと熱燗と云うフルコースを注文。


鯖中毒の私なれど、先ずはカツカレーに挑めば、ハハハハハハ…美味過ぎるわ。これやんこれ!ホンマ日本の料理って美味過ぎる…全くもって根本的に調理レベルが違い過ぎると云っても過言にあらず。ここのカレーは決して俗に云うカレー専門店なんぞの味にあらず、所謂庶民的家庭の味であればこそ、尚の事郷愁を誘うと云うものか。カツカレーが何故美味いのか、斯様な事を語る事さえ不毛なれば、ただ一心不乱に目の前のカツカレーを貪るのみ。カツカレー大盛りを軽く平らげれば、次は塩サバときずしを頂きつつキリンビールそして熱燗を呷り、更に茄子田楽もあれば、嗚呼、これぞ日本人に生まれて良かったとしみじみ思う瞬間である。勿論日本に住んでおられれば、斯様な喜び判る筈もなかろう故、しょうむないヨーロッパ系レストランやらアジア系レストランやら流行りの多国籍料理屋やら救いようのない創作和食屋やらに出掛けられるのであろうが、これぞ私から見れば愚の骨頂以外の何物でもなく、たとえ食に関して国粋主義者と侮蔑されようが、食の国粋主義者大いに結構、ほなら「大日本愛食党」でも「大日本食魂塾」でも「大日本憂食社」でも「大日本血盟護食会」でも結党したるがな。結局日本人の手による料理が一番美味い事には間違いなく、たとえイタリア料理にした処で、本場のイタリアよりも日本のイタリア料理の方が美味い事は、皮肉にも事実なり。況して日本料理ともなれば、そもそも調理方法の種類だけでも、西洋料理に比べ余程豊かにして複雑繊細なれば、先ずは調理に於ける手間を一切惜しまず、素材の味や食感を如何に生かすかに腐心し、更には一番美味しいと思われる食べ頃の温度や時間等まで気に掛け、即ち熱いものは熱いうちに等と云う感覚を携えるは、世界中で精々日本人と韓国人と中国人程度であろう。何しろヨーロッパにて出される料理とは、たとえレストランに於けるコース料理であれど、全ての料理が何となくぬるいのは当然にして、料理によって味がなかったり濃過ぎたり、一体とても一人のシェフが味の管理をしてるとは思えず、全くもって「味の流れ」なんぞ考慮しておらぬようにさえ思えれば、何ともまあ風情のない事か。ヨーロッパに於ける殆どの庶民派レストランが、もし日本にて店舗を構えておれば、味の面、サービスの面、両方から慮った処で、先ず9割方は即閉店廃業の憂き目に遭わされる事間違いなし。況してやイギリスのレストランなんぞ、あまりの不味さとサービスの悪さに、「お前、これで金取る気ィか!」と、いきなり暴動さえ起こらん。
せんせいもカツカレー大盛り食らいて大いに感激、続いて納豆に感涙し、鮭の刺身に舌鼓を打っておられる。田畑君もカツカレーに「美味いわ」を連発、更には鯵フライを堪能し、すっかり満腹の御様子。兄ィは我が道をと云う事でカツ丼の大盛りを食らい、塩サバと味噌汁も食らっておられれば、すっかり大満足にて一言「うん、美味いよ。」東君はトンカツ+御飯+塩サバに当然の如く焼酎と云う選択、周りから漂うカレーの匂いに「やっぱりカレーには負ける」とこぼしつつも、大いにトンカツと塩サバを、そして焼酎を堪能しておられる。


皆大いに満足満腹となれば、地下鉄にてGlynさん宅へと戻り、明日のフライト用パッキングに勤しむ。矢張りツアーCDはどう考えても在庫過多にして、あまりの重量なれば、ここから先の列車移動の事も考慮し、この際少々日本へ返送する事に。Glynさんはカセットデッキを新調したとかで、何でもカセットデッキが壊れて半年だったらしく、久々に自分のコレクションを聴けると御機嫌なれば、TubesやらHere & Nowやらの貴重なライヴ録音テープ等を次々再生、まるで子供のようなはしゃぎっぷりなり。Glynさんとビール片手に歓談、午前1時半就寝。

(2005/8/24)

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